吾輩は鱒である 第1章②

 この釣り人の網の中でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。釣り人が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗(むやみ)に眼が廻る。胸が悪くなる。到底(とうてい)助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。

 ふと気が付いて見ると釣り人はいない。たくさんおった兄弟が一疋(ぴき)も見えぬ。肝心(かんじん)の母親さえ姿を隠してしまった。その上今(いま)までの所とは違って無暗(むやみ)に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子(ようす)がおかしいと、のそのそ這(は)い出して見ると非常に痛い。吾輩は網の中から急に河原の浅瀬へ棄てられたのである。
 ようやくの思いで浅瀬を這い出すと向うに大きな淵がある。吾輩は淵の縁で泳いでどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別(ふんべつ)も出ない。しばらくして跳ねたら釣り人がまた迎に来てくれるかと考え付いた。バチャ、バチャと試みにやって見たが誰も来ない。そのうち淵の中をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。食いたくても虫がいない。仕方がない、何でもよいから食物(くいもの)のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと淵を左(ひだ)りに廻り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに泳いで行くとようやくの事で何となく人間臭い所へ出た。

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Author: フライ地蔵

あまりにも釣れないため、ボーズを通り越してお地蔵さんになってしまいました.../(^o^)\ しかも、サカナが釣れない主原因は諸所の雑用が多くて、ほとんど釣りに行けないという.../(^o^)\