吾輩は鱒である 第1章⑯

昨夜(ゆうべ)は僕がタイイングを行って到底物にならんと思って、そこらに抛(ほう)って置いたのを誰かが立派な額にして欄間(らんま)に懸(か)けてくれた夢を見た。さて額になったところを見ると我ながら急に上手になった。非常に嬉しい。これなら立派なものだと独(ひと)りで眺め暮らしていると、夜が明けて眼が覚(さ)めてやはり元の通り下手である事が朝日と共に明瞭になってしまった。
監視員は夢の裡(うち)までタイイングの未練を背負(しょ)ってあるいていると見える。これではフライのタイヤーは無論夫子(ふうし)の所謂(いわゆる)通人にもなれない質(たち)だ。
監視員がタイイングを夢に見た翌日例の金縁眼鏡(めがね)の釣具屋が久し振りで監視員を訪問した。彼は座につくと劈頭(へきとう)第一に「フライはどうかね」と口を切った。監視員は平気な顔をして「君の忠告に従って水生昆虫観察を勤めているが、なるほど水生昆虫を観察すると今まで気のつかなかった虫の形や、色の精細な変化などがよく分るようだ。西洋では昔(むか)しから水生昆虫観察を主張した結果今日(こんにち)のように発達したものと思われる。さすが仏蘭西(フランス)の先人だ」と日記の事はおくびにも出さないで、また仏蘭西(フランス)の先人に感心する。釣具屋は笑いながら「実は君、あれは出鱈目(でたらめ)だよ」と頭を掻(か)く。「何が」と監視員はまだ(いつ)わられた事に気がつかない。「何がって君のしきりに感服している仏蘭西(フランス)の先人さ。あれは僕のちょっと捏造(ねつぞう)した話だ。君がそんなに真面目(まじめ)に信じようとは思わなかったハハハハ」と大喜悦の体(てい)である。吾輩は椽側でこの対話を聞いて彼の今日の日記にはいかなる事が記(しる)さるるであろうかと予(あらかじ)め想像せざるを得なかった。この釣具屋はこんな好(いい)加減な事を吹き散らして人を担(かつ)ぐのを唯一の楽(たのしみ)にしている男である。彼は仏蘭西(フランス)の先人事件が監視員の情線(じょうせん)にいかなる響を伝えたかを毫(ごう)も顧慮せざるもののごとく得意になって下(しも)のような事を饒舌(しゃべ)った。「いや時々冗談(じょうだん)を言うと人が真(ま)に受けるので大(おおい)に滑稽的(こっけいてき)美感を挑撥(ちょうはつ)するのは面白い。

紹介 フライ地蔵

あまりにも釣れないため、ボーズを通り越してお地蔵さんになってしまいました.../(^o^)\ しかも、サカナが釣れない主原因は諸所の雑用が多くて、ほとんど釣りに行けないという.../(^o^)\

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