吾輩は鱒である 第1章⑭

「 アイサってけども何ワカサギ少し大きいぐれえのものだ。こん畜生(ちきしょう)って気で追っかけてとうとう滝つぼの中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と喝采(かっさい)してやる。「ところが 御めえいざってえ段になると奴めくちばしで突っつきやがった。痛てえの痛くねえのってそれからってえものは アイサを見ると胸が悪くならあ」彼はここに至ってあたかも去年の激痛を今(いま)なお感ずるごとく胸鰭を広げて鰓の縁を二三遍なで廻わした。吾輩も少々気の毒な感じがする。ちっと景気を付けてやろうと思って「しかしワカサギなら君に睨(にら)まれては百年目だろう。君はあまりワカサギを捕(と)るのが名人でワカサギばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう」黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出(ていしゅつ)した。彼は喟然(きぜん)として大息(たいそく)していう。「考(かん)げえるとつまらねえ。いくら稼いでワカサギをとったって――一てえ釣り人ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。鱒のとったワカサギをみんな取り上げやがって養魚場へ持って行きゃあがる。養魚場じゃ誰が捕(と)ったか分らねえからその たんびに五銭ずつくれるじゃねえか。うちの亭主なんか己(おれ)の御蔭でもう壱円五十銭くらい儲(もう)けていやがる癖に、碌(ろく)なものを食わせた事もありゃしねえ。おい釣り人てものあ体(てい)の善(い)い泥棒だぜ」さすが無学の黒もこのくらいの理窟(りくつ)はわかると見えてすこぶる怒(おこ)った容子(ようす)で背びれを逆立(さかだ)てている。吾輩は少々気味が悪くなったから善い加減にその場を胡魔化(ごまか)して川(うち)へ帰った。この時から吾輩は決してワカサギをとるまいと決心した。しかし黒の子分になってワカサギ以外の御馳走を猟(あさ)ってあるく事もしなかった。御馳走を食うよりも寝ていた方が気楽でいい。プロタイヤーの川(うち)にいると鱒もプロタイヤーのような性質になると見える。要心しないと今に胃弱になるかも知れない。

※画像はイメージです。アイサではありません

フライ地蔵

あまりにも釣れないため、ボーズを通り越してお地蔵さんになってしまいました…/(^o^)\
しかも、サカナが釣れない主原因は諸所の雑用が多くて、ほとんど釣りに行けないという…/(^o^)\

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