吾輩は鱒である 第1章⑰

せんだってあるフライマンにシャルル・リッツがサワダに忠告して彼の一世の大著述なるA FLYFISHER’S LIFEを仏語で書くのをやめにして英文で出版させたと言ったら、そのフライマンがまた馬鹿に記憶の善い男で、日本釣り学会の演説会で真面目に僕の話した通りを繰り返したのは滑稽であった。ところがその時の傍聴者は約百名ばかりであったが、皆熱心にそれを傾聴しておった。それからまだ面白い話がある。せんだって或るビルダーのいる席でギャリソンの歴史的フライロッドの話(はな)しが出たから僕はあれはアンティークの中(うち)で白眉(はくび)である。ことに女監視員公が投げるところは鬼気(きき)人を襲うようだと評したら、僕の向うに坐っている知らんと云った事のない先生が、そうそうあれは実に名竿だといった。それで僕はこの男もやはり僕同様この竹竿を投げておらないという事を知った」神経胃弱性の監視員は眼を丸くして問いかけた。「そんな出鱈目(でたらめ)をいってもし相手が読んでいたらどうするつもりだ」あたかも人を欺(あざむ)くのは差支(さしつかえ)ない、ただ化(ばけ)の皮(かわ)があらわれた時は困るじゃないかと感じたもののごとくである。釣具屋は少しも動じない。「なにその時(とき)ゃ別の竿と間違えたとか何とか云うばかりさ」と云ってけらけら笑っている。この釣具屋は金縁の眼鏡は掛けているがその性質がバスプロの黒に似たところがある。監視員は黙って日の出を輪に吹いて吾輩にはそんな勇気はないと云わんばかりの顔をしている。釣具屋はそれだからフライを巻いても駄目だという目付で「しかし冗談(じょうだん)は冗談だが毛鉤というものは実際むずかしいものだよ、レネ・ハロップは門下生にカゲロウの羽根のしみを写せと教えた事があるそうだ。なるほど石影などに這入(はい)って雨の漏る羽根を余念なく眺めていると、なかなかうまいシルエットが自然に出来ているぜ。君注意してタイイングして見給えきっと面白いものが出来るから」「また欺(だま)すのだろう」「いえこれだけはたしかだよ。実際奇警な語じゃないか、レネ・ハロップでもいいそうな事だあね」「なるほど奇警には相違ないな」と監視員は半分降参をした。しかし彼はまだ石影でタイイングはせぬようだ。

 

フライ地蔵

あまりにも釣れないため、ボーズを通り越してお地蔵さんになってしまいました…/(^o^)\
しかも、サカナが釣れない主原因は諸所の雑用が多くて、ほとんど釣りに行けないという…/(^o^)\

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